台湾球界発展に力を貸すOB達。
昨年8月下旬から9月にかけて大阪でU18ワールドカップが開催された。 侍ジャパンは甲子園で活躍した選手たちが中心となり、個人タイトルをほぼ総なめにしたものの、決勝でアメリカに敗れた。それでも個々の能力や日本の高校野球のレベルの高さを世界に知らしめる有意義な大会となったことだろう。
その一方で全12ヵ国中、8位に終わった台湾。順位的には半分以下という不完全燃焼に終わってしまった。そこでチームを統括している「中華民国棒球協会」は選手や指導者のスキル向上を目指して 日本プロ野球OBを招き、コーチ講習会を開催した。登場したのは石井丈裕と大島公一だ。
映像:台湾の高校生を指導する石井と大島
(出典:You tube https://www.youtube.com/watch?v=0m0pBtKJR48)
石井丈裕といえば西武の先発として92年には最優秀防御率のタイトルを獲得した右腕だ。実は台湾球界にも関係がある。日本ハムを99年限りで退団した後は2リーグ分裂していた現地へ渡り、01年まで選手兼コーチとして活躍していた。現役引退後は所属していた「誠泰太陽」の監督を務めた経験がある。
大島公一は近鉄、オリックス、楽天と3球団を渡り歩いた両打ちの内野手。どこでも守れる器用さとバントの上手さが光った選手でもある。00年には35犠打でパ・リーグ最多となる数字を記録した。 昨年まではオリックスの二軍打撃コーチを務めていた。
石井は投球、大島は守備の動作を実演しながら丁寧に教えていた。 特に石井が感じたことが以前から言われていたことと全く同じでこれには自身も驚いた。その内容とは投手の特徴だ。
「台湾の投手は球に力があるが、制球に苦労している」
過去、当ブログで何度か紹介している。石井はもちろん、統一ライオンズ監督の郭泰源ですらこのことを認めているのだ。制球がなく、決め球もないため打たれる場面が多い。それが原因でシーズンが開幕したプロ野球では連日のように2桁得点の試合が続いている。つまり、アマチュア時代からプロに入るまで全く成長していないことになる。指導者の質の問題もあるだろうが、この問題が解決しない限り、この先の国際大会で結果を残すことはできない。よく日本の投手の練習法や技術を参考にしたいという声が挙がる。このようなとき、OBがすぐに現地へ行ける形ができればよいと思う。
大島は 守備の動作の中でも捕球体制について選手たちに教えた。右投げのため、左足を重心にし正面で球を捕ることの大切さを説いた。よく日本人は「球を正面で捕れ」と指導される場合が多い。時には片手でも速い送球がカバーできることもあるが、ほとんど指導者に怒られる。自身もある期間、プレーヤーとして過ごしていたときがあるため、当時のことをよく思い出す。以前、桑田真澄がこれらの指導法に疑問を投げかけた書籍「常識を疑え」の中で「捕球するとき、どこが正面なのか」という項目があった。その内容は実際に本を読んでみてほしい。
今回、台湾で指導した2人は海外の子供たちの指導は初めてだったようだ。 石井には知り合いがいたようで安心した様子だった。一方の大島は完全に1人状態。それでも通訳を介しながら自分がプロで得た技術を伝授していた。
このイベントは3月中旬に行われたものだ。日本では一切、報道されていない。基本的にプロアマチームの指導者 と球団アカデミーの職員、名球会のメンバーといった表舞台に出ているOBの動向しか知ることができない。調べていけばいつの間にか海外に行っている場合があるのだ。「野球伝道師」の活躍を伝えるメディアがあってもよいのではないか。既に侍ジャパンのサイトでコラム連載をしているが、その数はまだまだ足りない。