□負けて学んだ2000年代

世界一の人口を誇る中国。その次にインドが続き、両国ともに人口13億人を超えるまさに「密」の国だ。人数が多いということはその分、野球選手はもちろん、その中に有望選手が隠れているという希望を感じさせる。
今回は中国野球について。同国では2002年に初めて野球リーグが誕生した。これは2008年の北京五輪に向け、野球強化の一環と言われている。その間にアジアプロ球団が集まり、アジアNo.1を決めるアジアシリーズと野球世界一を決めるWBCも開催され、日本の野球ファンは中国野球を見る機会を増やした。
しかし、アジアシリーズでは14戦全敗と同大会ではお荷物チームであった。しかし、北京五輪と2009年WBCでは台湾に勝利し、国際大会では光明が見えかけていた。それでも中国国内に戻ると年によってリーグ戦が開催されたり、そうでなかったりと不安定な時期が続いた。
当初の中国リーグには入団テストがあり、一定の記録を超えなければプレーすることすらできなかった。また、たとえ入団できたとしても実際のところは公務員扱いであり「プロ」の選手とは言えない立場にあった。これが変わり始めたのは2010年代に入ってからになる。
□世界を見て急成長の2010年代
2010年代に入った当初の中国国内リーグ戦は不安定な時期が続き、年によっては6チームでわずか1、2週間限定のリーグ戦を行ったこともあった。筆者は2018年に中国・広州に行き、その試合を見てきた。周辺に五輪選手育成施設が揃っており、野球場のグラウンドは問題ないが、客席は廃れきっており、当時の観客数は2桁にも満たなかった。

筆者が中国現地で野球を見るよりずっと前から、この人口世界一の国に注目していた団体があった。それがアメリカ・メジャーリーグ(MLB)。既に2003年頃から同国で野球発展できるか、有望選手を獲得できる市場になりうるかどうかを見極め、本格的に着手し始めたのは北京五輪のタイミングだ。
市場にできるかどうかという結論は、形として表れた。MLBは中国の3ヶ所に野球アカデミーを設立、有望選手を集めて自前で育成することでそのままマイナー契約までもっていく。同アカデミーに所属している選手は約100人で、中学生から高校生までの選手が汗を流しているという。
中国ではサマーリーグを実施し、国内での強化に努めながら海外でも大きな挑戦を始めた。2018年からはアメリカ独立リーグのアメリカンアソシエーションに所属する「テキサス・エアーホッグス」に選手を送り、高いレベルで実践的な選手育成に乗り出した。この独立リーグは2Aクラスではあるが、中国人選手からすれば高いレベルの環境下でプレーすることができる。
チームの成績的には負け続きだったが、選手個々の能力は大きく向上した。その成果は2019年に台湾で開催されたアジア選手権で証明された。この大会は2020年東京五輪の予選も兼ねていたため、ホスト国の日本を除く上位2位までに入れば最終予選への出場権を得る機会があった。
アジアの勢力を考えると中国は日本、韓国、台湾に続いて4番目の実力。これを踏まえると中国が五輪に出場するとは考えられないが、独立リーグで鍛えてきた選手たちが躍動し、格上の韓国に2度勝利。大会最終順位は1位・台湾、2位・日本、3位・中国で日本を除き、中国も五輪出場の可能性を残している。
□さらなる野球発展へ
2019年、国際大会で久々に大きな結果を残した中国では国内でも転換期を迎えていた。これまで行われていた国内野球リーグを一新して、初めてプロリーグ戦と名乗る「中国プロ野球連盟」(通称:CNBL)が誕生した。
同時にMLBとも戦略的提携を結び、海外のプロ野球球団との交流や関係強化、中国国内の学生チームとも連携しながら育成年代強化とプレー環境整備も行っていく。初年度は北京タイガースが優勝し、さらなる発展を目指すために大事な2020年を迎えた。しかし、新型コロナウィルスの影響でその予定はキャンセルとなった。その代わりに代替大会は開催されている。
筆者は2019年に香港で女子野球の大会を取材した際、参加していた中国チームの選手から「中国は2025年まですべてのスポーツに投資していく」という国の方針を聞いた。野球では延期になった五輪出場を目指すと同時に男女野球の同時発展のほか、2022年開催予定の杭州アジア大会での競技実施とこの近年は忙しい。
2002年からの中国野球の発展を追ってみると、世界大会があればたとえ国内でマイナー競技だとしても、惜しみなく投資する。来たる東京五輪が終われば、しばらくはまた野球が五輪から消える。今や中国はMLBと連携しているため、いきなり衰退はないと思うが、大きな目標がなければ野球熱が冷めるのではないか、と心配になる。果たして、中国はどのように発展するのかその過程に期待したい。