□人財の宝庫
現在、人口が13億人を超えるのは中国とインド。特にインドは数年後、中国を抜いて人口世界一になると言われている。同時に野球の世界でも今後はアジアの勢力図を変えてしまうのではないかと巷ではもっぱらの噂だ。
今回はインド野球について。日本にいると、インドの野球情報が入ってくることはほぼない。むしろ、野球よりもカレーやクリケットのイメージが強く、逆に野球が存在しているのかすら怪しい国なのではないだろうか。
「インド×野球」といえば、メジャーリーグ(MLB)がインドで行ったスピードガンコンテスト「ミリオンダラー・アーム」が有名だ。2人の有望選手がイチから野球を学んでマイナー契約まで至るこの過程は映画にもなっている。
□MLBも注目する巨大市場
2019年7月、MLBがインドの首都・ニューデリーにMLB事務局を設立し、新たな市場として選手を発掘・育成していくと発表した。前述した「ミリオンダラー・アーム」は2007年に行われたが、MLBはそれより前の2004年からインドに注目していたという。
この発表がされた直後、筆者はインド事務所の設立会見を行っていた「MLBインターナショナル」のジム・スモール氏に話を聞いた。当時の話では、2004年からインドに注目し、ミリオンダラー・アームの終了後も継続してコーチの派遣や野球プログラムを実施していたとのことだった。
2019年はイギリス・ロンドンで初めてMLB公式戦が開催された年。その直後にインド事務局の設立を発表しており、次なる目標はインドでの公式戦開催、そして中国にもある野球アカデミーをつくることだ、とスモール氏は話していた。
SNSやYoutubeが発達している今、インドでもMLBの試合を見ることができる。ちなみに2020年のワールドシリーズはインドのスポーツメディア「Star Sports」でライブ中継された。
確かに人気のスポーツはクリケットやサッカー。実際に「Star Sports」のホームページを見ても人気スポーツに「Baseball」の文字はない。しかし、MLBが参入したことで市場が拡大し、インドスポーツの勢力図が変わるのではないか。
□インド人選手の潜在能力

インドには日本のようなプロ野球はない。それでもインドにある28の州のうち26の州で野球が行われており、野球人口は約5万人と言われている。州ごとに定期的に大会が開催され、そのレベルには差があるが、野球選手の存在は確認できる。
筆者はこれまでインドの男女代表の試合を見たことがある。男子は2019年、スリランカで開催された西アジアカップ、女子は同年、中国で開催された女子野球アジアカップだ。両代表とも実際のチーム成績以上に選手個々の潜在能力を発揮した。
西アジアカップではホスト国のスリランカをはじめ、パキスタンやイランなど6ヶ国が参加した。西アジア地域はパキスタンとスリランカの2強と言われており、インドは4番目くらいの実力で過去の成績から入賞はないと思われていた。
実際にフタを開けてみたところ、インドは大躍進した。開幕戦でホスト国のスリランカを後半まで苦しめた。結果的に逆転負けだったものの、選手たちはこの試合を機に大きな自信を得た。
当初は動きが固い選手もいたが、試合を重ねるごとに本来の力を発揮し、3位決定戦に進出。イランを相手に1人の投手が13奪三振の完投勝利を収めたことでチームはメダルを獲得して他の参加国から大きな称賛を受けた。
一方の女子野球。インドでは2004年から女子野球が始まり、2016年のW杯にも出場した経験をもつ、筆者が実際に見た2019年のアジアカップでは1人の投手が数日間で急成長した。
インドは投手が少ないことから、ほぼ全試合で投げていた。初戦は日本との対戦を見たとき、セットポジションができず、たとえ出塁を許してもワインドアップで投げ続けていた。試合を重ねるごとにフォーム修正がされ、最後の試合ではセットができるようになっていた。
打撃面でも、多くの選手は元々、クリケット選手であったことからミート力に長けており、日本の投手が投げる100キロ超のスピードにも対応していた。チーム成績は8ヶ国中の7位だったが、短期間での適応力と成長スピードは参加国の中で1番だったのではないか。
このように男女野球ともに選手個々に光るものがある。もちろん、インド現地の指導者もコーチングを学んでいるが、より質の高い指導者がいれば代表チームもさらに強くなるだろう。次世代のスターは誰か。インドの有望選手の出現は楽しみでしかない。