野球発展に情熱を注ぐパキスタン

野球発展に情熱を注ぐパキスタン

□西アジアの雄

 アジア野球連盟(通称:BFA)に加盟している国と地域は「24」。そこからさらに東西地域に分かれる。東地域には日本も含まれるため、国際大会では同地域の国々を見る機会が多い。

 その一方で西アジア地域は国際大会の開催地が日本から遠いこともあって実際に目にする機会は少ない。たとえ、その状況でも同地域から積極的に大会に参加している国がある。それが西の王者・パキスタンだ。

 1992年から野球が始まったパキスタンは、親子2代にわたってイチから野球普及・発展に取り組んでおり現在でもその情熱は尽きることはない。実践経験を積みながら新たなステージを目指している。

□波及する情熱

 現在、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)が発表しているアジアランキングでパキスタンは5位。実力でみると6番目、もしくは7番目だろうか。これも自国で大会を主催する傍ら、アジア地域で開催される大会には年代関係なく参加していることから、ランキングは上昇している。

 初めて日本のファンがパキスタン野球を目にしたのは2003年のアジア選手権だろうか。札幌で開催された同大会はその翌年のアテネ五輪予選も兼ねており、当時のパキスタンは元西鉄・阪神の渡辺博敏氏を監督に据えた。

 成績は1勝2敗の最下位で予選リーグ敗退に終わったものの、インドネシアを11-5で破り歴史的勝利を挙げている。その後はアジアカップを自国で開催する機会が増え、数多くの優勝を飾り、西アジア地域での王者に君臨した。

 パキスタンの選手は主に軍人が多く、多くがクリケット経験者で構成される。そのおかげで打撃能力に長けており、筆者が2019年にスリランカで観戦した西アジアカップでは自慢の打撃で準優勝となった。

 自国で大会を開催しながら競技レベルを上げてきたパキスタン。同時にパキスタンは西アジアの野球発展にも貢献しており、アフガニスタンやネパールなどの周辺国がアジア野球連盟に加盟できたのはパキスタンのおかげでもある。

WBC予選で指揮を執ったサイード・ファカー・アリシャー会長 (写真:左)

 現地、野球連盟のサイード・ファカー・アリシャー会長も国際大会があれば、自ら帯同する。こうして足を運ぶ理由には現地の野球連盟や関係者と会談し、常にパキスタン野球の発展のためのヒントを得ようとしているからだ。

 筆者もアジアでの国際大会を見に行くと会う機会が多い。会うたびに現地の野球情報と今後の展望について教えてくれる。彼が2代目のパキスタン野球連盟会長。先代の父親の意志を継いでおり、海外と連携しながら常に野球発展のことを考えている。

□目指すはMLB

 最近のパキスタンはユース選手の育成に力を入れている。既に現地で20の野球アカデミーを開設しており、約500人の選手が汗を流している。国内外の大会で結果を残すために着々と準備を進めているところだ。

 その成果は確実に出ている。2018年に台湾で開催されたU12アジア選手権では3人の投手が120キロ台を計測して注目を浴びた。また、2019年に中国で開催されたU15アジア選手権の大会首位打者と本塁打王はパキスタンの選手だった。

 これまではトップチームの世代交代が課題に挙げられていたが、代表選手の中には後進育成に力を注ぐ選手も出てきており、全世代が一体となってパキスタン野球の底上げを目指しているのがわかる。

 先日、パキスタンでは「スカルドゥ」と呼ばれる山で野球選手権が開催された。その標高は2,228 mを誇り、これは高い場所で野球の試合をした世界記録になるという。このような国内外に向けてのプロモーションも忘れない。

 こうした野球発展に積極的なパキスタンが次に目指すのはMLB選手の輩出だ。これまではメジャー契約はもちろん、マイナー契約をした選手はいない。以前、ピッツバーグ・パイレーツの関係者と会談の機会をもち、パキスタン人選手の可能性について話しあったことがある。

 既にコネクションはあるため、後はいかに有望選手を育成できるかにかかっている。まだその夢の実現には時間はかかりそうだが、確実に一歩ずつ進んでいる。まだまだ伸びしろがあるパキスタン、野球にかける情熱は必ず形となるだろう。今後の成長にさらに期待したい。

 

 

 

 

  

 

 

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