□元アジア最強国
現在のアジア野球の実力は日本を筆頭に韓国、台湾、中国と続く「アジア4強」が長年、その強さを誇っている。この4チームが第1、もしくはAグループと呼ばれている。
そして前述の「4強」に続くのはフィリピンやパキスタン、香港などといった国々で第2かBグループと呼ばれる。なかなかこの構図が崩れないのが、4番目の中国とそれ以下の国々との実力差が開いていることが挙げられる。
今回はフィリピン野球について。現在はアジア5番目に位置づけられ、最も「打倒・中国」に近い国だ。今は5番目の実力ではあるが、かつては日本よりも強いアジア最強国に君臨していた。
□野球の神様もプレーした場所
1910年代から約25年間にかけて、アジア諸国を集めたスポーツ大会「極東選手権大会」が開催された。野球の他にも陸上やサッカー、バスケットボールなどの競技が行われ、フィリピンは全10回中、4回でホスト国を務めた。
当時の日本はプロ野球誕生前だったため、主に六大学野球の選手が参加していた。同大会で日本は4回、対するフィリピンは6回の優勝。フィリピンもプロではなかったが、その後の1954年の第1回アジア選手権でも優勝するなど1910年代から1960年頃まではフィリピンが強かった。
以前は国際試合のホスト国なっていたフィリピン。首都・マニラにある「リサール・メモリアル・スタジアム」は1934年に開場した球場で、ここでメジャーリーグ選抜との対戦やアジア選手権も開催された。

リサール・メモリアル・スタジアム (写真:豊川遼)
今では老朽化してしまったものの、スタンドには本塁打を放った選手の名前が刻まれている。メジャーリーグ選抜との試合では、ベーブ・ルースやルー・ゲーリックら大スターもここで本塁打を放った。

今でも1960年頃までの勢いが継続されていれば、フィリピンはさらに上位の実力を持っていたことだろう。衰退してしまった理由は色々考えられるが、米軍基地の撤退や気候の問題もあったのではないだろうか。こうして一時的に力を落としたが、アジア5番目の実力があり、東南アジア地域ではトップの地位を維持している。
□古豪復活と挑戦
筆者が実際に観戦した2018年の東アジアカップや2019年のSEA GAMES(※東南アジアの五輪)ではフィリピンは頂点に立った。また、2018年のアジア選手権では1-0で中国に勝利するなど、確実に古豪復活への道を歩んでいる。
2020年は新型コロナウィルスが世界中で猛威をふるっている。本来、フィリピンは3月に開催予定のWBC予選に出場するはずだった。残念ながら延期になってしまったが、フィリピンからだけではなく、日本やアメリカでプレーする選手も集めて勝ちにいく準備をしていた。
最近では、フィリピン野球協会も海外チームとの連携も目指している。関西独立リーグの堺シュライクス関係者との会談や、巨人と協力して野球アカデミーの設立などさらなるフィリピン野球発展を目指している。
ちなみに発展を目指しているのは男子野球だけではない。現地では女子野球も行われており、多くはソフトボール選手ではあるが、2019年に行われた女子野球アジアカップで初出場ながら3位に入り、2021年のW杯進出を決めている。

当時、筆者も試合会場となった中国でフィリピンの初勝利を見届けていた。日本戦前、選手にインタビューをしたところ、ソフトボールから野球に動きを変えるので1番苦労したのは塁間の距離だったという。約半年間の練習で一気に世界の舞台まで駆け上がった。
こうしてフィリピンでの男女野球ともに復活と発展を続けている。男子はWBC本戦出場、女子はW杯上位入賞とそれぞれ大きな目標がある。2020年は思うような練習はできていないが、この状況下で力を発揮できるか注目だ。