□幸せの国に現れた野球
野球というスポーツは世界的に見ればマイナースポーツと言われている。それでも世界中には約160ヶ国に野球連盟が存在し、そのレベルは国によって差があるものの、グラブやバット、ボールを持ってプレーを楽しんでいる人々がいる。
この約「160」という数字は世界野球ソフトボール連盟(通称:WBSC)に加盟している国々の数だ。たとえ未加盟の国であれど、野球が行われている国がある。その1つが日本から約4570キロ離れている国、ブータンだ。
一言でブータンと言っても国の位置や首都名、文化など馴染みが薄い。筆者の同国に対するイメージは「幸せの国」ということだけだ。ブータンに隣接する国はネパールやバングラデシュ、中国やインドであり、野球のアジア地域区分でいえば、西アジアに含まれるだろう。
調べてみると、ブータンの人気スポーツはアーチェリーやバドミントン、バスケットボールだそうだ。野球は発展途上のスポーツであるが、一体、どのように野球が始まったのだろうか。これを紐解いてみる。
□普及活動で知ったブータン人の強み
今回、ブータン野球を知るにあたりサポートしてくれたのは現地在住でアメリカ出身のマシュー・デサンティス氏。「ブータン野球 &ソフトボール」という団体の創設者の1人として活動している。

元々はブータンのソフトウェアシステム開発や観光業に携わっている人物で、野球普及活動の開始は2013年から。そのきっかけは現・ブータンオリンピック委員会会長であるジゲル・ウゲン王子との出会いだったという。
ウゲン王子はブータン王室の1人ではあるが、アメリカで教育を受けた経験をもつ。そのため、2人は幼なじみで仲がよい。学生時代は共にバスケットボールやソフトボールなどで交流を深めるうちに自然とブータン国内のスポーツ発展に協力する流れになった。こうしてデサンテイス氏はブータン入国後すぐに野球用具を持ち込んで、すぐに競技普及活動を開始した。
最初はブータンの首都・ティンプーにおいて野球を紹介するイベントを開催。主に6歳から18歳までのブータン人約500人を超える人々が集まり、初めて触れるスポーツを体験した。その後も特に制限は設けずに首都圏でイベントを継続した結果、オリンピック委員会や国際協力機構(JICA)からの協力を得ることができ、さらに野球の需要が高まったという。
デサンティス氏によるとブータン人には体の使い方が上手く、反射神経があり、強肩かつ強い精神力を持っており、野球をするには最適な能力を持ち合わせているという。また、バットを持たせても鋭いスイングができるとのことだ。
□課題直面も前進中
こうしてブータン国内で野球への興味・関心が高まっていったものの、大きな課題に直面することになる。それは実際にプレーする場所の確保だ。現在、ブータンには野球場は存在しないため、場所確保に躍起になる。
先述のイベント開催などは基本的に陸上競技場の横にあるコンクリートの上が行われていることが多く、負傷の危険と隣り合わせの状態だ。今では学校の敷地を使えることもあるが、プレー機会やイベントの告知がどうしても開催直前になり、参加者が少なくなってしまうという。
場所の確保は難しいが、それでも選手や指導者育成、環境整備を同時に行っているために成長スピートが速い。既に2021年からは初めての野球リーグ戦開催が発表されている。
普及活動開始から約7年で何もないところからリーグ戦開催まで進めたブータン野球。レベルは未知数だが、今後が楽しみな新興国だ。今回の話はここまで。次回はブータン野球の未来について書いていく。