□巻き返しへ大改革
2020年、新型コロナウィルスの影響を受けてイレギュラーなシーズンを迎えたBCリーグ。その中で茨城アストロプラネッツは60試合で7勝49敗4分 勝率.125と壊滅的な成績を残してしまう。しかし、決して悪いことばかりではなく、小沼健太投手がNPBドラフト会議で千葉ロッテマリーンズから育成2巡目で指名を受けた。この間にもチームは2021年に向けて動き始めていた。
これまでの長峰昌司GMや坂克彦監督ら首脳陣が一掃された。彼らに代わり新GMにはアジア3ヶ国で代表監督を務めた色川冬馬氏、監督には長年、選手としてBCリーグでプレーしたジョニー・セリス氏が就任した。
続けて、ヘッド兼打撃コーチに松坂賢氏、投手兼S&Cコーチに小山田拓夢氏がそれぞれチームに加わった。新首脳陣に共通しているのは、選手としてNPBを経験していないことだ。
たとえNPB経験はなくとも、色川GMやジョニー監督、松坂コーチは海外で選手や指導者を経験、小山田コーチも選手としてBCリーグでプレーし、尚且つ、投球やトレーニング、体のケアについての知識が豊富であり人望も厚い。それぞれの濃い経験によって広い知見を持ったメンバーが揃った。
□魅せる新しい形
2020年12月6日、BCリーグの茨城アストロプラネッツが初となる球団単独でのトライアウトを開催した。会場となった茨城県の笠間市民球場には、新天地を求めて60人を超える参加者が集結した。
今回、球団での単独トライアウトでは珍しい有観客として開催されたため、選手だけではなく、全国各地から野球関係者やファンも集まった。10時30分頃に会場に到着すると、スタンドでは13時開始に向けてスタッフが着々と準備を進めていた。
まず、最初に驚いたのが音響を設置していたこと。野球で音楽といえば、練習では試合前の球場内BGMとして、試合中は選手の登場曲として使われることが多いが、従来のトライアウトはスタンドからの声援はあれど、実際のテスト中に音楽を流すことは珍しい。

次に驚いたのは飲食の物販をしていたことだ。出店していたのはプラネッツの関連会社で茨城県ひたちなか市勝田にある「カフェ&ダイニングバー さぼ~る」。看板メニューはタコライスだそうだが、この日はやきいもとコーヒーを販売していた。有機のやきいもで時間が経つごとに冷えていくファンの体を温めていた。


グラウンド内では参加者の野球人生を賭けて戦っている最中である反面、スタンドにいるファンを野球を見るだけでは飽きさせないまさに、エンターテイメントの要素が含まれていた。
従来のトライアウトは声援こそあるが、物販はなく、BGMも流れないまさにシビアな世界を体現したものだった。何も直接的なアナウンスがなく、ただ見ているだけでは時間は残酷にも「飽き」を生んでしまう。
こうしたある意味「マンネリ化」を脱却し、球団はファンを楽しみを提供しながら選手には試合時のように「見られている」中で普段通りのプレーができるか、プロ選手としての態度、振る舞いができるかをテストしているようにも思えた。
□人生賭けた1日
ここで、グラウンド内の様子について。トライアウト開始前にプラネッツ首脳陣から参加者にメッセージを送った。色川GMからは「人生を賭けて来ている。言い訳なしに」と力強い言葉があり、トライアウトを受ける心構えを伝えた。後に1日の流れが説明され、選手達はグラウンドそれぞれの場所に散っていった。

テスト内容は1次は個人能力で50m走、内外野の守備・送球、投球、打撃テスト。2次は実践でカウント1-1から対戦するものだった。守備や送球では主に内野手は併殺プレー、外野手は三塁送球が行われた。ここで首脳陣はスピードガンを持ち、送球スピードも計測し、中には140キロを超える送球をする選手もいたという。

投球テストでは投手の持ち球は12球のみ。選手のすぐ後ろには球団首脳陣がスピードガンを持って鋭いまなざしで投球をチェックしていた。実際に投げていた選手は変則サイドや2種類の投げ方をする投手など個性が強い投手が揃っていたが、投手の1次テスト合格者は全26人中、わずか6人となった。
一方の打撃テストでは、投手は打者からかなり近い場所から早いテンポで次々と投げており、MLBの練習でよく見られる方式が取られていた。日本式では一定のリズムで行われるが、打者は打った直後に次の球への準備をしなければならないため、戸惑っている様子も伺えた。野手の1次通過者は16人だった。

この日、打者にとって日差し強さや周囲の暗さがテスト中に影響する場面が多く、状況的には投手よりも不利だったといえる。しかし、これで結果が出ないのであればそれは「言い訳」になってしまう。こうした状況の中でも、いかに自分の武器を発揮できるかを球団は見ている。
こうして無事にトライアウトが終了。合格者は後日発表される。最後に山根将大球団社長をはじめ、首脳陣からの言葉があった。最後のあいさつもトライアウトには珍しい形だ。また、気がつけば新体制になってから首脳陣をお披露目したのは初めてだった。
印象的だったのは山根球団社長自らファンに対して面白い提案を募集していたこと。野球界では、ファンの声を直接的に届けることは難しいが独立リーグだからこそできること、まさにファンと創っていくという決意がこもった呼びかけだったのではないだろうか。
固定概念を「斬って新しく」し、NPB経験者ではない首脳陣、楽しむトライアウトの形といった革新的な取り組みを続けるプラネッツはこの勢いで2021年シーズンを面白くしてくれる。来季はこのチームに注目だ。
