□続く女子野球ブーム
今夏の甲子園の決勝戦は智弁和歌山と智弁学園による「智弁対決」で盛り上がった。この対戦カードの実現までに選手をはじめ、大会運営者は連日の雨に悩まされたものの、無事に全試合を終えることができた。
その一方で同時期に注目されていたのは女子高校野球大会だ。なぜなら、例年ならば兵庫県丹波市で開催される同大会が決勝戦のみ、甲子園で行われることになっていたからだ。実際に甲子園の地を踏んだのは神戸弘陵と高知中央の2校で試合は4-0で神戸弘陵が勝利して幕を閉じた。
2021年はこうした甲子園効果もあり、女子硬式野球部設立を発表する高校が増えた。例を挙げると広陵や学法石川、弘前学院聖愛といった男子の高校野球で有名校が手を挙げている。特に青森県出身の筆者としては聖愛に女子野球部ができることをとても嬉しく思っている。
□車を走らせたその先に
11月3日、世の中は「文化の日」で祝日であり、近所の小学校では少年野球チームが試合を行っていた。去る9月、青森県ではコロナウィルス蔓延の影響を受けて県内各地のスポーツ施設の閉鎖や部活動など禁止措置が取られていた。10月になってからその制限は解除され、県内各地でスポーツを楽しむ日常が戻りつつある。
この解除された10月1日、2021年夏の甲子園に出場した聖愛から女子硬式野球部を創設するという発表があった。そして、最近では公式Twitterも開設された。
前日まで分かっていた情報としては、2022年4月から部活が始動すること、そして外部コーチとして過去に青年海外協力隊の一員としてニカラグアで女子野球リーグ創設に尽力した阿部翔太氏がコーチングマネージャーに就任する2点のみだった。
既に筆者は阿部コーチングマネージャーとは親交があり、彼が青森県にやってきたときから連絡を取りあっていた。聖愛に女子硬式野球部が立ち上がることを知ると「直接、関われたらいいね」と話しており、その約2,3週間後には男子野球部の原田一範監督から直々にコーチ就任のオファーを受けたと連絡があった。
その後も進捗状況は本人から聞いていたこともあり、現状の聖愛女子野球部の準備状況が気になっていた。そんな気持ちになっていると、11月3日の昼頃に「中学野球を観に行こうかな」という話から始まり、気づけばその話がいつの間にか聖愛を直接訪問する流れとなった。車に揺られ約1時間半後、筆者は聖愛のグラウンド前に立っていた。
□強調していた2つの言葉
グラウンドに到着すると男子野球部が練習を行っていた。ふと、グラウンドの横を見ると原田監督や部長先生が談笑していた。初めてお二人にお会いしたが、筆者がイメージしていた「高校野球の監督」とかなりかけ離れており、とても気さくな方々で安心した。
お互いに挨拶後、共に女子野球部設立準備について話した。現状では部員集めをはじめとする学校や女子野球部設立の認知度アップが最優先課題だという。青森県初の女子硬式野球部ということもあり、他県の女子野球部を見学して情報交換を行ったり、先日は体験会も実施したという。
青森県の女子野球チームは「青森ゴールデンボンバーズ」というNPBガールズトーナメントにも出場している1チームしかない。少年野球や中学野球を見渡しても女子選手の姿を見かけることがあってもプレーする場所が限られており、女子野球を続けたければ高校から県外にいくしかない。その状況で高校として最初に手を挙げたのが聖愛だった。
聖愛はこれまで青森県にはなかった女子野球という新しい文化形成に挑戦しようとしている。そのために環境を整備する側として準備することが多い。一言でいえば「手探り状態」であるため、既に女子野球界の現場での指導経験や深いつながりがある阿部コーチングマネージャーに白羽の矢が立ったことも必然だったと言える。
今後の活動において強調された言葉はこの2つだ。
「聖愛だけの特色」「聖愛独自の文化」
最近の「女子野球ブーム」によって地方で女子硬式野球部を設立する動きが加速している。女子硬式野球部が初めて始まった際はわずか全国で5校のみだったのが、今や40校を超えている。こうして数が増えたことにより中学3年生の選手にとって高校を選ぶ選択肢が増えた。とても良い傾向であり、その数多くの中で選ぶ決め手はその場所にしかない特色や文化もカギとなってくる。
近隣県の例を挙げれば、岩手・花巻東では男子と同じユニフォームを着ることができ、同校OBである菊池雄星投手や大谷翔平選手から直接、指導を受けられる可能性がある。また、宮城・クラーク記念国際では女子硬式野球部専攻コースがあり、楽天イーグルスがチームをバックアップをしている。両校ともこの場所でしかできない体験であり、文化であり特色といえる。
これらの中に新しく聖愛が入っていく状態。どこの高校も中学3年生に「選ばれる」立場だ。学校独自の特徴をつくり、アピールすることは必須となる。聖愛は今、手探りの状態ではあるものの、阿部コーチングマネージャーの加入により数多くの提案がされ、言葉通りの「聖愛だけの文化」を形成しようとしている。
彼の実績を考慮すると、海外の女子野球チームとの交流が期待できる。これまで、海外選手との交流は日本代表に選出されて国際大会に出場する、もしくは野球教室の講師として現地入りするという2点が主な方法で結構、ハードルが高い。もし、これが高校生の時点から国際交流ができるとすれば大きな価値になる。
もちろん、この海外野球の他にも数多くの案が出ていた。どれが実現するのかはまだ不明だが、筆者も今後、聖愛を訪問する機会が増えるため随時、情報発信していく。