イチローと対戦した女子高校野球選抜からみる次なる女子野球界の課題

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□仕掛ける女子野球界

 12月18日、女子高校野球選抜とイチロー氏が創設したチーム「KOBE CHIBEN」とのエキシビジョンマッチがほっともっとフィールド神戸で開催された。数日前の急な発表でとても驚いたが、相手がイチローというビッグネームということもあり、一気に注目度が高まった。

 試合は1-0でKOBE CHIBENが勝利した。女子高校野球選抜の中にはTikTokで87万超フォロワーを持つ松本里乃投手(高知中央)や先日、巨人の女子チーム入団が発表された吉安清選手(至学館)ら注目されている選手もおり、彼女らとイチローとの直接対決も見どころだった。実際に対戦した吉安選手は投ゴロ、松本投手は二ゴロでイチローを打ち取った。

 この日は「9番・投手」で出場したイチローは9回4安打17奪三振無失点で完封勝利を飾った。途中で足をつるアクシデントもあったものの、最速135キロを計測し147球を投げた。今回の真剣勝負をYou tubeライブで約3万人が視聴。今夏、女子高校野球の大会決勝が甲子園で開催されたとはいえ、競技としては認知度を高める段階であるため、とても良い機会になったと思う。

□1人1人のアピールが必要

 今日の試合によって女子野球界の歴史に新たな1ページが刻まれた。筆者は今夏の甲子園終了後から女子野球を心配していた。それは一過性のブームになってしまうのではないか、ということ。甲子園後も全国的に女子野球チームをつくるところが増えてはいたものの、周囲をアッと驚かすようなイベントがなかったからだ。

 確かに今日の試合を迎えるまでに巨人が女子野球チームをつくる発表はあった。NPB球団が女子チームを持つことは西武や阪神が先に始めていたこともあって「いつかは巨人も」という期待もあった。以前から関東のリーグ戦であるヴィーナスリーグを支援し続けていることからむしろ、遅かったくらいだ。

 それから今日の試合があり全日本女子野球連盟はじめとする「女子野球を当たり前の競技・文化とする」という球界全体の目標は着実に進行している。いくら選手自身や周囲が頑張っていても、それらの活動が認知されければ存在していないことに等しい。

 今日の試合を観ていて感じたことは、選手自身からの発信が必要だということ。試合に出場していた松本投手や吉安選手はそれぞれ「TikTok」や「巨人女子チームの選手」として自らの活動や経歴を通じてチームの枠を越えて多くの人に認知されている。このイメージ、ブランドづくりは女子野球界の永遠の課題とも言える認知度アップにプラスに働く。

 その逆に選手本人にとっては今後、何をしても同じイメージで言われ続けるマイナス面もあるが、その存在を認識してもらえることは大きい。見る側もより試合を楽しむためには、出場する選手がどのようなタイプなのか、どのような特徴を持っているのかをあらかじめ知っているほうがよいだろう。

 先日、ある友人が女子野球に対して次のようなことを話していた。

「何人か女子野球選手のSNSを見たことがあるけど、ほとんどが野球教室等の事後報告か、楽しかったという姿の写真しかない。今後、球界発展を目指すなら選手個々がメディアで注目されるようにプロモーションが必要。今のままだと先に進まない。もちろん、応援しているから頑張ってほしい」

 この意見は真剣に受け止める必要がある。メディアに注目される選手に共通するのは松本投手や吉安選手のようなインパクトだ。実際に女子野球選手の取材記事を読んでいると一部には「なぜ、自分が…」と戸惑いを見せている選手もいる。こうして「私が女子野球を拡げる」という気持ちになるそうだが、彼女らに対して思うのは1人で気負い過ぎないでほしい、ということだ。

 当たり前の文化にするためには、女子野球に関わっているすべての人が個々でプロモーション活動が必要だと思う。特に選手自身は野球選手としての自分を周囲に伝える絶好のチャンスになる。あらかじめ、どのような選手なのか、何が武器なのかを発信して多くの人に知ってもらえば球場で応援してもらえる機会が増える。次なる課題はプロモーション。今後も一過性のブームにしないためにも継続して盛り上げていこう。

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