□青森県に新たな歴史
2022年4月9日、青森県初の高校女子硬式野球部が弘前市の弘前学院聖愛中学高等学校(以下:聖愛)で始まった。昨年10月の創部発表から約半年、5名(※注)が始まりの1期生として聖愛の門を叩いた。前日に入学式を終えた彼女たちはこの日、女子硬式野球部の正式な活動開始日として校舎付近の公民館「千年交流センター」に集まっていた。
(※注:聖愛中学には女子硬式野球部はないが、2名の中学生選手もいる。合同練習や弘前市の女子中学野球チーム「弘前プレイヤーズガールズ」でプレーする。)
この日は練習ではなく、スタッフ紹介を兼ねたファーストミーティングだった。今回の女子硬式野球部創部によって、聖愛は男女両方の硬式野球部を持つことになる。これは青森県では初めてのことだ。部が増えるということはその分、関わる人数も多くなるため、最初は野球部の組織図が発表された。その図によれば筆者も含めて21名のスタッフがいる。 その役割も細かく分かれており、それぞれの強みを活かした内容となっていた。
女子硬式野球部の監督には前年まで男子硬式野球部長を務めた太田淳(あつし)氏、チーフコーチに同校で数学を教える山内開登(かいと)氏が就任した。そして、監督とコーチをサポートする形で男子硬式野球部や外部コーチと連携し動いていく。筆者がこの組織図を見たときはコーチの人数の多さに驚きつつ、手厚いサポート体制に感銘を受けた。

□日本一と世界
「正式始動!となればグラウンドに行き、さっそく練習!」といきたいところだが、その前に聖愛女子硬式野球部として決めなければならないことがある。それは目標、私たちは何を目指すのかだ。昨夏の全国大会決勝は甲子園、そして今春の選抜大会は東京ドームと今、女子硬式高校野球界はイノベーションが起きている。プロ野球選手がプレーする場所、高校野球ではまさに「聖地」と呼ばれる場所に立つチャンスがあるのだから、期待に胸が膨らむ。
ここで肝に銘じたいのが、実際にグラウンドに立ってプレーするのは1期生である彼女たちだ。つまり、主役である当人たちが中心となって決める必要がある。さぁ、議論開始である!

最初はなかなか意見がでなかったが、阿部翔太コーチングアドバイザーの鶴の一声で場の雰囲気が和み、次々と目指したいもの、なりたいものについて意見が飛び交った。1期生は自ら決めて歴史をつくることができるため、自由に発言してもよいし、それが歴史になる。まさにこの時間もそうなのだ。
色々と意見が出た中で満場一致で決定したのが以下の目標だ。
「日本一になり、女子野球の良さを世界に広める〜りんごを持って〜」
大きく出た!これがまさに目標であり、進んでいく道になる。
なぜ「~りんごをもって~」なのか?
それは青森県といえば、多くの人々からはりんごのイメージがある。また、聖愛の校舎付近にはりんごの木があり収穫の季節になればりんごに囲まれることもあり、まさにりんごの国にある学校といえるだろう。
今回の議論の中で「青森県や聖愛の知名度を高める」というものがあり、日本一になり、彼女たちが一所懸命にプレーすることによって世界への扉が開かれる。今や女子野球でも世界を目指すことができる。ワールドカップはもちろんのこと、アジアアップもある。そして、国際大会でりんごを紹介すれば、世界中に青森県や聖愛のことをアピールできるという訳だ。
では、実際にこの目標を達成するのは何をすればいいのか。・・・・というのは具体的な内容は次のミーティングまでの宿題だそうだ。もちろん、野球だけやっていればよい訳ではないため、生活や学習面においてもリーダーを決めていた。ちなみに1期生の選手の大半が寮生活となるため、日頃からの連携が大事だ。
□筆者の想い
昨今、盛り上がりを見せている高校女子硬式野球。昨夏の甲子園をきっかけに全国各地で女子硬式野球部を創部する高校が増えた。もちろん、聖愛もその中の1つである。入学式シーズンの中、自然と他校に関するニュースが入ってくる。高校選びの理由として近年の大会での戦績はもちろん、憧れの選手と同じユニフォームを着ることができる、はたまた、地元の女子硬式野球部だからと数多くの理由がある。その影響か新1年生が30名や40名になるところもある。
こうしたニュースを見ていると「隣の芝生は青く見える」状態になる。しかし、考えてみると創部時点の人数が少ないのはどこも同じだ。全国的には50校を越えた女子硬式野球部の数は今後も増えて行くだろう。多くの選択肢がある分、それぞれの高校の特色を出していく必要がある。聖愛は何が良いだろうか。
阿部コーチングマネージャーは過去、ニカラグア女子野球を創設した実績があり、筆者はこれまでの取材を通じてアジア各国の女子野球関係者との繋がりがある。前述した1期生の彼女たちが世界を目指しているのならば、その目標に近づくことができるようにサポートすることが役割なのではないだろうか。
筆者自身も聖愛のユニフォームを着てプレーしている彼女たちが見たい。もしくは国際大会の代表メンバー選出などの体験を経て高校卒業後も大きく羽ばたいてほしい。さぁ、これから聖愛女子硬式野球部の歴史が始まる!こうご期待!
